2-4 経過の説明

失敗例~事実が知りたいんだけど

「顧客が、納品を1週間前倒しにして欲しいとわがままを言ってきています。」
武下君は憤りを隠さずに続けた。
「まったく、急にそんなことを言ってこられても、こっちも受けられるわけないですよ。はっきりと断るべきだと思うのですが、それでいいですか?」
「前倒しといっても、先方はどういう感度で言ってることなの?なにか前倒しが必要な事情はあるの?」
「どうせ、いつものわがままですよ。こっちの都合なんて考えてないんですから。受ける必要なんてありません。」
「いや、そうじゃなくて、先方が何を言っていたか、事実を知りたいんだけど。」

解釈を混ぜずに事実を説明する

 論点と聞く側に何を求めているかを共有したら、そこに至る経過の説明を行います。
 作業の遅延であれば、予定に対してどれほど遅れているのか、その遅れの原因は何かといったことを説明します。関係者間で意見の相違や衝突が発生しているのであれば、登場する関係者とそれぞれの見解を説明します。
 そこで気をつけなければならないのは、事実と解釈を混ぜないことです。
 経過とは事実の流れを示すものであり、できるだけ客観的に観察する対象です。そこに解釈を混ぜてしまうと、その解釈に引っ張られるバイアスや、逆に反発するバイアスがかかってしまい、客観的な観察の邪魔になります。事象や発言を客観的に捉えることができなければ、事実を見誤り、分析は的を外して、適格な結論を得る確率が下がってしまいます。

伝言は正確に行う

 特に他者の発言については注意が必要です。
 なるべく正確に伝達を行わないと、あなたを挟んだ二人の間の理解にズレが生じてしまい、まとまるものもまとまらない状態に陥ってしまいます。
 例えば、相手としては、「できるかどうか検討の余地があるか」を聞いているだけだったのに、「行ってほしい」という要望があったと伝えてしまえば、回答にも微妙なズレが生じてしまいます。また、「いつ回答をもらえるか」という問いについて、「回答を急かされている」と伝達してしまえば、相手が意図していないストレスを勝手に自分たちにかけている状態になってしまいます。
 仕事をするうえで、会話がかみ合わない人ほど、やっかいなものはありません。そんなつもりで話しておらず、そんな言葉も選んでいないのに、勝手に解釈されても困ってしまいます。発言のウラを読むことも必要ではありますが、その前に、まずは言葉の字面を正確に読み、伝えることが、コミュニケーションの齟齬をなくすための必須条件となります。

成功例

「顧客から、納品を1週間前倒しする余地はあるかと聞かれています。」
武下君は憤りを隠さずに続けた。
「作業を押し込めば、できなくはないところです。ただ、全体的に押せ押せの進行なので、過負荷による品質への影響が気になります。」
「余地を聞かれているということだけど、先方は、どういう感度だった?なにか前倒しが必要な事情は聞いている?」
「そこは聞けていないです。」
「じゃあ、そこを聞いてみよう。ほかの作業と順番を入れ替えれば、前倒しの余地もあるよね。」
「まあ、そうですけど。」
「であれば、優先させないといけない事情があるのか。そのために、ほかは遅らせてもいいのか。その辺を確認してもらっていいかな。」
「わかりました。優先度を確認してみます。」