2-5 経過の説明~作業の遅延

失敗例~作業効率と時間不足、どっちの話なの?

「今週期限の調査が遅れています。今週中には間に合わないかもしれません。」
武下君が焦った口調で報告する。
「どのくらい遅れているの?」
「どのくらいというか・・・。来週であればできると思います。」
「なぜ遅れているの?」
「なぜ、と言われても。昨日も9時まで残業して頑張っているのですが。」
「思ったより、作業が難しいということ?」
「それと、ほかにも色々やることがあって、思ったように進められていません。」
「えーと・・・。作業効率が思ったほど上がらないのと、時間を割けていないのと、どっちなの?」

作業進捗を数字で把握する

 作業が遅れている場合、その遅れを定量的に説明することが求められます。
 例えば、月曜日開始で金曜日終了という予定の作業について、水曜日時点の見込み進捗率は単純に考えると60%になります。これに対して、実際の進捗が20%であれば、遅延は40%であり、日数でいうと2日遅延と計算できます。
 スケジュールについては、このように定量的に把握し、説明ができるようにしておく必要があります。

遅れをふたつの理由に分解する

 作業が遅れており、その対処を考える場合には、その理由を特定することが必要です。理由を特定せずに対処しても、方向違いの対応になってしまいます。
 理由を特定するためには、作業の遅れを要因分解します。作業が遅れる場合、その直接的な理由は、大きく分けて以下のふたつになります。

 ・リソースの投入が不足している(投入時間の不足など)
 ・作業効率が見込みよりも低い(スキル不足。付随作業の発生や手戻りの発生など)

 理由の特定についても、定量的に考えて、遅れの時間を分解していきます。上の例でいえば、月曜日から金曜日にかけて、1日5時間×5日間=25時間をかける予定だったが、水曜日時点で5時間しか時間をかけられていないということであれば、リソースの投入不足が直接的な理由となります。そうではなく、予定通り15時間かけて作業しているのに遅れているのであれば、作業効率が見込みより低いことが直接的な理由となります。
 もちろん、リソースの投入不足と作業効率の低さの両方の要素を含んでいる場合もあります。その場合にも、どちらの要素によって、それぞれどの程度遅れているのかを分解します。
 このように、遅れ自体の定量化と要因分解が、作業遅延の説明のベースとなります。その後に、要因分解した理由に対して、それを引きおこしている原因を確認します。

原因を特定して対応する

 不足した投入リソースが作業時間であれば、何かほかのことを行っていたのだと思います。先週までのタスクの残作業があったり、突発的にほかの作業が発生したりして、今週の作業に十分時間を割けていないのだと思われ、それが原因となります。
 作業効率の問題であれば、スキル不足による手戻りや、作業の範囲や深さが想定とは違っていたといったことが原因となります。
 こうして特定した原因に対して、原因を解消するような対処を行っていきます。原因が投入時間の不足であれば、作業の優先度の入れ替えや担当割り振りの見直しを行い、投入時間を増やします。そうではなく、スキル不足による作業効率の問題であれば、経験者の支援によるスキルの補完などを試みますし、そもそも見積時点で作業効率や範囲を見誤っていたのであれば、期限を修正して仕切り直すといった対処をします。原因が複数あるようなら、遅れへの影響度合いが高い原因から順に対応を行っていきます(持っているリソースの都合で、次善策、その次の策しかとれないこともあります)。
 これが、原因が特定できておらず、やみくもに対応をしてしまうと、意味がない結果になります。例えば、原因が投入時間の不足なのに、経験者がやり方を教えるといったような対応を行うことを考えてみます。こうした場合、せっかく、時間を割いてやり方を教えてもらっても、その後、先週までのタスクの残作業などの別の作業に取りかかってしまって、教えてもらったことが活かされません。当然、作業は進まず、遅れは広がっていきます。
 こうした事態を避けて、対応の選択を原因に対して合理的に行うことができるように、作業の進捗とその遅れについては、定量的に把握し、説明を行うことが求められることになります。

「そもそも、人が足りないんですよ」と言っても意味はない

 よく、「そもそも、人が足りないんですよ」といった文句が出ることがありますが、それはどういう状況でしょうか。
 例えば、作業見込み時間が120時間の作業に対して、投入人数が1名で期間が5日間の場合、1日12時間作業をしても60時間しか確保ができず、「そもそも、人が足りない」という状況になります。
 しかし、これに対して、「そもそも、人が足りない」という感覚論を述べても、たいして意味がありません。感情論に対しては、「頑張りが足りない」という根性論で返されるのがオチです。
 そこでまずは、時間が120時間必要であること、期限までに60時間しか確保できないことを説明します。そうすれば、次は、120時間という見積時間の妥当性が論点になります。相手が「できるはずだ、なぜできないんだ」と言うようなら、「私にはどうやれば期限内にできるかわからないので、どうすればいいか教えて欲しい。」と聞けばよいです。実際に一部をやってもらって、やり方を見せてもらうのもよいでしょう。「期限は絶対だから守れ」と言うようなら、「今のままでは大切な期限を守れないので、人を割り当ててください。」と頼みましょう。
 なんとかすべきなのは「時間が120時間必要」という前提を変える方法を見つけるか、「60時間しか確保できない」という状況を変えるか、いずれかです。この点を論点にして議論ができるように、数字で示して、数字を解決するようにしましょう。

成功例

「今週期限の調査が遅れています。今週中には間に合わないかもしれません。」
武下君が焦った口調で報告する。
「どのくらい遅れているの?」
「現時点で2日の遅れです。」
「そうすると、2日プラスして、来週火曜日には終わるの?」
「それも難しそうです。先週行った作業について追加の依頼が来ており、そちらを片付けるのに今週いっぱいはかかりそうです。」
「そうすると、遅れは4日まで拡大する可能性があるということ?」
「悪くするとそうなります」
私は、追加の依頼について、武下君に確認した。
「この追加依頼であれば、来週に回せそうだね。依頼元の担当とは私が話すから、調査の方をこれ以上遅らせないように進めてもらっていいかな。」
「わかりました。残業すれば、月曜日には終わらせることができると思います。」
「そうしてくれるとありがたいよ。」