2-3 そして何を話したいのか

失敗例~結局、何が言いたいの?

「先日指示された資料の作成が遅れていまして・・・。」
話しづらそうに、武下君は話を続けた。
「明日、木曜日期限だったのですが、ほかの作業もあって、間に合わないかもしれなくて・・・」
「それで?」
「今日明日と、遅くまで残業すればなんとか間に合うのかもしれないのですが・・・」
「うん。」
「やっぱり、遅くまで残業すべきですよね・・・」
「いやいや。私にどうして欲しいのか、わからなくて聞いているのだけど」
「・・・」
「状況を説明したいだけなのか、なにか判断が欲しいのか、それとも、何かを相談したいのか・・・。結局、武下君は何を言いたいの?」

論点と求めることで思考の枠組みが決まる

 議題・アジェンダを提示して、聞く側の準備が整ったら、内容の説明に入ります。
 その際、あなたは、どのような論点について、聞く側に何を求めているかを、まず伝えてください。
 聞く側は、話をただ聞いているわけではありません。その会話の最後に出す結論を考えながら聞いています。そのために、適当な思考の枠組みを準備し、その枠組みに事象をあてはめることで、結論を導こうとしています。
 そして、思考の枠組みはいくつものバリエーションがあり、結論を出そうとする論点に応じて、枠組みを使い分けています。
 ・作業の遅延が許容できるかどうか。
 ・並行する作業の優先順位をどうするか。
 ・見解の相違について、どう落としどころを作るか。
 それぞれの論点ごとに、考える際に使う思考の枠組みは変わってきます。

まず最初の思考の枠組みを用意させる

 しかし、話の最初の方で、どのような論点があり、何を求められていて、どのような結論を出せばいいのかがわからないと、この枠組みを用意することができません。話を最初から最後まで聞き、論点と求められていることがわかったところで、ようやく枠組みが用意できます。そして、その枠組みにそって情報を再構成するために、また、話を聞きなおすことになってしまいます。
 こうした二度手間を避けるために、内容の説明に入ったときに、まず、どのような論点があるのか、何を聞く側に求めているか、言い換えると、結局のところあなたは何が言いたいのかを伝える必要があります。

「結論を先に言え」とはどういうことか

 「結論を先に言え」という指摘を受けることがあります。ここでいう結論とは、あなたが最後に聞こうとしている問いを指しています。最後の問いを聞きたいのは、考える際の枠組みを用意したいからです。
 こうして考えると、「結論を先に言え」と言われて、「期限を延期すべきである。なぜならば・・・」と、論点に対する結論ありきで話しはじめることの間違いがわかります。相手からすると、「私は、期限に対してなんの判断もしていないのに、なぜ説得されているのだろう?」と不思議な気分になりながら、話を聞くことになります。
 そうではなく、「期限を延期してよいか、判断を仰ぎたい」という、最後に聞こうとしている問いを先に言うことが、「結論を先に言え」という指摘に対する答えになります。

成功例

「先日指示された資料の作成が遅れていまして・・・。」
話しづらそうに、武下君は話を続けた。
「明日、木曜日期限だったのですが、期限を延ばすことは可能でしょうか。」
「理由は?」
「ほかの作業もあって、思うように時間が割けておらず、間に合わないかもしれないので・・・」
武下君は申し訳なさそうにしているが、まあ、こちらも色々とお願いしているからな・・・。
「その資料は、来週月曜日の顧客との打ち合わせで説明するためのものだよね?」
「そうです。それで、打ち合わせの場で結論を出せるように、事前に送付して確認しておいてもらおうと思っていました。」
「ちなみに、結論って、その場でもらわないとまずいの?」
「えーと・・・。作業が来週の金曜日なので・・・、来週の水曜日までに回答をもらえれば、その後の準備は間に合います。」
「じゃ、月曜日の打ち合わせまでに、資料ができてればいいよ。それなら間に合うの?」
「それならいけます」
「では、それでいこうか。色々お願いしているけど、よろしくね。」